2014年4月1日火曜日

裁判・子育て・バーネット著 片親疎外とDSM-5

バーネット先生から送っていただいた資料を和訳してみました。
これも試訳バージョンですが、確度は向上してるんじゃないかと。

AACAP NEWS SEPTEMBER/OCTOBER 2013 pp.255-266 米国児童青年精神医学会

片親疎外とDSM-5

ウイリアム・バーネット 医学博士

片親疎外のコンセプトは、DSM-5にはっきりと表明された――ことに、親子関係の問題と、親どうしの関係に悩まされる子供として――現行の用語を出さないようにして

この数年にわたって、片親疎外(PA)を精神疾患の分類と診断の手引の第5版に掲載すべきかどうかの議論が行われてきた。PAを正式な診断名すべきだという意見は、2008年にDSM-5の作業部会に送付され、これは2010年にThe American Journal of Family Therapy で発表された(Bernet ら 2010)。基本的に、私達はPAはDSM-5に掲載されるべきだと提言した:前半部に精神疾患として記述するか、または「その他の、医療上に注意すべき状態」という章に関連する問題として記述するか、あるいは「さらに研究が必要な状態」に提案する診断名として記述するか。

私たちのPAの定義は、子ども――普通、その両親が高葛藤な別居や離婚をしている――が疎外に加担する側の親と強固な同盟関係をつくり、他方の標的にされる側の親を正当な理由なく拒絶することである。PAS(片親引き離し症候群)については、時折、論争があるのだが、PA(片親疎外)についてはこれ以上の一般的な定義についての反対意見はほとんどない。ほとんどすべての、子どもや離婚親に関する精神医療の専門家は、(私たちの定義の)PAが、何千もの家族に影響して苦しみをあたえていることを認めている。広範囲にわたる定性的・記述的な研究が行われており、またもう少し限定的に定量的研究が行われている。私たちはPAに関する900もの論文・図書の目録をつくった、これは6大陸の36の国々から集められた。

私たちの提言にたいして、DSM-5の作業部会の上級委員は、彼らがPAを独立した診断名として、固有のコード番号を持つようには扱いたくないと述べた。彼らはPAは既存の診断名「親子関係問題」の一例であると考えていた。喜ばしいことに、最近になって出版されたDSM-5でで、PAは複数のコードに新しい診断名で登録されていた。片親疎外という言葉そのものは現れないまでも、PAの精神は強く、そしてうまくDSM-5(アメリカ精神医学界2013)に現れている。医療・法医学の実務家が、子どもがPAに影響されていることを表すときは、以下にあげる診断名が検討されるべきである。

DSM-5では親子関係の問題のディスカッションが特集されている(715ページ)。ここでは、親子関係問題のなかの認知上の問題が、「これは、相手の行為をいつも否定的な意図を持つものとして曲解すること、相手に敵対すること、相手をスケープゴートにすること、不当に離反する気分、が含まれるだろう」と説明している。これは子供にとってのPAの経験として、まことに良い記述である。こうした子どもは強固に、拒絶されている側の親の感情や行動について、「否定的な意図として帰属」するものだからだ。またその子どもは拒絶された親にたいして頑固に敵対し、その親をスケープゴートにする;つまり、何であれ悪いことがおきると、その親のせいにして非難するのだ。ただこの著者たちが「不当に離反する気分」という表現を使ったのは残念であった。この問題に関する文献は、ほぼ全ての著者は、理由がある・当然そうなるだろう気持ちのときに「離反」を、理由がない・不当な気持ちのときには「疎外」というように、言葉を使いわけているからだ。

親間の不調和による苦悩に影響された子どもは、DSM-5の重要な新しい診断カテゴリーである(p.716)。これは「臨床上の注意点が、子についての親間の不調和(例:高葛藤、苦悩、軽蔑)による悪影響(精神・そのほかの身体の不調への影響を含む)にある場合」に用いられるべきである。これはどう片親疎外が生じるかについて、じつに良い記述である。すなわち、PAはふつう、高葛藤な別居ないし離婚の進行につれておこり、そこにはほぼ必ず、疎外に加担する親による、拒絶された親への永続的な軽蔑がみられる。

心理的な児童虐待は、DSM-5のもうひとつの新しい診断カテゴリーである(p.719)。これは「事故ではない、親または保護者の、言葉による、ないし象徴的な行為で、明確に子どもに心理的な害を与えたり、与えることが明白な場合」と定義された。多くの片親疎外の事例で疎外に加担している親の行為は、心理的な児童虐待である。

妄想性障害の患者のパートナーにおきる妄想症状は、共有精神病性障害ないし二人組精神病をあらわすためにDSM-5で用いられている用語である。その定義は「関係のなかで、上位にあるパートナーの妄想が、それ以外には妄想性障害の基準にあてはまらないもう一方の人に、妄信を植え付けてしまうこと」である。重度の片親疎外のケースでは、疎外に加担している親の、拒絶されている親に関しての強迫観念が妄想といえるような強さに至ることがある。それを子どもと共有してしまう。

他者についての虚偽性障害は、代理虚偽性障害ないし代理ミュンヒハウゼン症候群をあらわすDSM-5の用語で、こう説明されている(p. 325)。「身体的・精神的な兆候や症状を改ざんする、または実際に傷害や病気を引き起こし、その手口が露見した場合。」「その人が、別の人(被害者)が病気である・障害をもった・傷害をうけたとして提示する。」「(嘘に)何の得があるのかはわかりにくくても、行為の虚偽性は明白である。」「行為が、たとえば妄想性障害などの他の精神疾患ではよりよく説明できない。」いくつかのPAケースで、片親疎外に加担する親にこれが見られる。

片親疎外のコンセプトは、DSM-5にはっきりと表明された――ことに、親子関係の問題と、親どうしの関係に悩まされる子供として――疎外という用語は使われていないが。これはDSM-IV-TRという、ひとつ前のバージョンからすると、大きな進歩である。とりわけ、心理的な児童虐待という新しい診断名を取り入れたことは大きい。片親疎外を経験した児童を診察・治療する際には、小児・青年精神科医は、これらの診断名を活用すべきである。 セラピストがPAに関する問題で困ったときは、最新の本(Gottleib 2012; Baker and Sauber 2012)を参考にするといい。法医学としての子どもの精神医学者は新しい包括的な本に興味を持つだろう(Lorandos, Bernet, and Sauber編、2013)。

出典

American Psychiatric Association (2013). Diagnostic and statistical manual of mental disorders, Fifth Edition. Arlington, VA: American Psychiatric Association

Baker A] L, Sauber S R (2012). Working with alienated chi/dreh and familie5: A clinical guidebook, Baker A/L Sauber SR eds. New York, NY: Routledge

Bernet, W (ed.) (2010). Parental alienation, DSM-5, and ICD-11. Springfield, IL: Charles C Thomas

Bernet W, Boch-Galhau WV, Baker AJL, Morrison 5 (2010). Parental alienation, DSM-V, and ICD-11. American journal of Family Therapy 38(2):76—187

Gottlieb (2012). Parental alienation syndrome: A family therapy and collaborative systems approach to amelioration. Springfield, IL: Charles C Thomas

Lorandos D, Bernet W, Sauber SR (2013). Parental alienation: The handbook for mental health and legal professionals. Springfield, IL: Charles C Thomas

バーネット博士はテネシー州ナッシュビルのVanderbilt 大学医学部精神科の名誉教授である。連絡先は wilIiam.bernetアットマークvanderbilt.edu 

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