2014年4月3日木曜日

DSM-5の関連項目 試訳 虚偽性障害

その他の症状に影響する心理学的な要因

 (p. 322)

虚偽性障害 (p. 324)


診断分類 300.19(F68.10)


自分にたいしての虚偽性障害


A. 身体的・精神的な兆候や症状を改ざんする、または実際に傷害や病気を引き起こし、その手口が露見した場合
B. その人自身が病気である・障害をもった・傷害をうけたと訴える。
C. (その嘘による)利益がはっきりしなくても、行為の虚偽性は明白である。
D. 行為が、たとえば妄想性障害などの他の精神疾患では、より良く説明できない。

他者についての虚偽性障害(代理虚偽性障害を改題)


A. 身体的・精神的な兆候や症状を改ざんする、または実際に傷害や病気を引き起こし、その手口が露見した場合。
B. 別の人(被害者)が病気である・障害をもった・傷害をうけたとして提示する。
C. (その嘘による)利益がはっきりしなくても、行為の虚偽性は明白である。
D. 行為が、たとえば妄想性障害などの他の精神疾患では、より良く説明できない。

自分・他者のいずれも、以下のいずれであるかを特定すること:
単発性
繰り返しておきる (二回以上の詐称・または自傷)

記載方法

患者が他者(たとえば子供、大人、ペット)の病気を詐称するときに、「他者についての虚偽性障害」という診断名を使う。その被害者ではなくて、加害者のほうに診断名がつく。被害者のほうは、虐待かもしれない(たとえば995.54 [T74.12X] 物理的な児童虐待、「その他の、医療上に注意すべき状態」の章を参照のこと)。

診断の特徴

虚偽性障害の要諦は、自分自身または別の人の医療・精神医療上の兆候や症状を改竄し、それが露見していることである。虚偽性障害の患者は、傷害や病気をおこさせたあとの自分や被害者にたいしての救済策を探すこともある。この診断のためには、その患者が(外的な)秘密裏に症状や兆候を偽り、真似し、あるいは実際におこさせたりすることの立証が必要である。虚偽の手口の例としては、誇張、でっちあげ、真似、実際に引き起こすことが含まれる。なんらかの病状がもともとあった場合、ごまかし行為や実際に傷つけたりすることは、その本人(ないし他者)がより重い病気ないし不全になっていると見せかけるので、より強い医療の介入につながるだろう。虚偽性障害の患者は、たとえば、配偶者の死別のあとの抑うつや自殺傾向を訴えるが、死別が虚偽だったり、実際には配偶者がいなかったりする;神経学的症状の詐称(たとえば発作、めまい、失神など);検査に手を加えて異常な結果を導く(たとえば尿に血液を加える);病気であるように医療記録を改竄する;物質を摂取して検査結果を異常にしたり病気を引き起こす(たとえば糖尿病につかわれるインシュリンや、血栓予防に使われるワルファリン);物理的に自分を傷つけたり、自分や他者に病気を起こしたりする(たとえば排泄物を注射して膿瘍をつくったり敗血症をおこさせたりする)。

診断のための支持的な特徴

いずれの虚偽性障害の患者も、彼ら自身や別の人を傷つけることによる、強い精神的苦悩や機能不全に陥るリスクを抱えている。患者の家族・友人、そして医療関係者は彼らの行為から悪影響を受ける。虚偽性障害は物質使用傷害、摂食障害、衝動調節障害、小児性愛、そしてその他のいくつかの障害と、行動上のこだわりと、病的な行いを秘密裏に行うための内なる努力という点で、共通点がある。虚偽性障害のいくつかの面は犯罪的な行為である(たとえば他者についての虚偽性障害で、親が子どもに虐待をはたらいていたとき)が、こうした犯罪的行為と精神疾患は、相互排他的ではない。虚偽性障害の診断は、意図の推定や水面下の動機というよりはむしろ、疾患の兆候と症状の客観的な帰属を重視するものである。さらに、こうした行為、実際に傷害や病気を引き起こすことをふくめて、はごまかしに基づくものである。

有病率

虚偽性障害の有病率(罹患率)は不明である、この病態に特有な偽りが調査を難しくしているのだろう。入院患者のうち約1%が虚偽性障害の要件をみたすと見積もられている。

発病と経過

虚偽性障害の経過は、ふつう間欠的な症状の出現をたどる。一回だけ、あるいは慢性的・持続的におきることは珍しい。発病はふつう若い大人のころで、しばしば精神状態ないし精神病のために入院したあとである。他者に対する場合は、その患者の子どもなどの入院の後であろう。病気の兆候や症状の虚偽やだれかを傷つけるような行為を再発する場合、このような医療従事者を欺く行為、それによる入院を含む、は一生続く可能性がある。

これとは異なる診断

看護者で、虐待による患者の傷害について嘘をつく場合は、自らの責任を回避するための嘘なので、虚偽性障害とはいえない。明らかな外的な利益があるからだ。(クライテリアC:(その嘘による)利益がはっきりしなくても、行為の虚偽性は明白である。)ただし観察、医療記録の調査、そして・あるいは人々へのインタビューから、自己防衛に必要な分よりもより頻繁に嘘をつくことがわかったら、この看護者は他者についての虚偽性障害であると診断される。

心身症 心身症では、認められた医学的な問題の原因を探るために、特別な注意とケアが必要になるだろう。しかし、その患者が偽の情報を与えたり、だまそうとして行動することの証拠がないのなら、虚偽性障害ではない。

仮病・詐病 詐病は虚偽性障害とは、個人的な利得の大きさという点で異なる(たとえば、お金や、仕事の休みなど)。特にそうした報奨がない場合でもおきるのが虚偽性障害である。

転換性障害(機能的神経学的な症状) 転換性障害は神経学的な症状であって、神経の病態生理学とは異なる。神経学的な症状を伴う虚偽性障害は、症状を偽ることにおいて、転換性障害とは区別される。

境界性パーソナリティ症候群 自殺の意図がなく、意識的に自分を傷つけるのは、たとえば境界性パーソナリティ症候群との関連でも起きる。虚偽性障害と診断するには、傷害が騙すためであることが必要である。

意図した症状の虚偽とは結びつかない病状または精神疾患 診断がつくような症状や精神状態と一致しない、病気の兆候や症状を訴えることは、虚偽性障害の疑わらしさを高めるものである。しかしながら、虚偽性障害の診断は、真の病状や精神疾患を否定するものではない。しばしば、虚偽性障害はほかの病気を併発するからだ。たとえば、血糖値を改ざんして症状をつくりだす患者は、実際にも糖尿病であるかもしれない。

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