2014年2月25日火曜日

子育て・片親疎外に対しての(学術的な?)批判はどういうものか

批判の実際?

国際的に使用されている精神疾患の治療マニュアルがあります。
これは、治療者の個人的な経験に頼るところ大であった精神病の治療を、
もっと科学的な客観性をとりいれるべく画策されているものです。
その分野の専門家が長いこと討論してできあがってくるもので、
当然、研究の進歩を取り入れて改定されていきます。

こうしたマニュアルの一つにDSMという、米国の精神医学会が編纂しているものがあります。
これ各国で使われるもので、日本でも臨床家が参考にしているようです。
これだけで診断ができるって程のもんではないんですが、
それはまあ内科のマニュアルと首っ引きの医者が信頼できないのと同じですね。

この新しい版 DSM-V が2013年に作られたのですが、その際に片親疎外を
取り入れようという動きがありました。よく見られる子供の状態であり、
様々な深刻な合併症を引き起こすので、取り入れるべきだというのは
たいへんリーズナブルな意見です。
一方、強力な反対意見もまた多くあります。
結局この版では見送られることになったのですが、
それら反対意見を4種類にカテゴライズして、
それぞれに反論した論文(査読付き原著論文)があります。

また、臨床家たちの学会において、どういう討論がなされているのかを、
日本からの参加者が紹介した論文があります。

ここでは、この2本の論文についてご紹介します。

Parental Alienation, DSM-5, and ICD-11: Response to Critics

(著者) William Bernet, MD、 Amy J. L. Baker, PhD
(誌名・巻・号)J Am Acad Psychiatry Law 41:1:98-104 (March 2013)
(ここで原文が公開されています) 
この原著論文によると、片親疎外が存在するかどうかについて、大きく4通りに分類できる否定的な見解が表明されています。しかしそれらはことごとく誤解に基づくもので、多くの実務者は片親疎外の事例を、実際に経験しています。
以下、この論文要旨を紹介します。

1 米国心理学会の見解を誤解したケース

この学会はかつて、「まだ充分なデータがないので、学会として公式な立場を定めない」という短いステートメントを出したことがある。これを誤解して、この学会によって存在が否定されたとか、まだ学術論文になっていないという批判がしばしばなされている。
しかし実際には、1980年台から、かなり多くの調査がなされており、それらは学術論文として刊行されている。逆に、これを否定する研究結果は見当たらない。そこで、上記の批判は見当違いである。

2 片親疎外ないし引き離し症候群が誤用される懸念

もしこれが誤用されると深刻な被害を及ぼす(適切な親から引き離して、DV的な親に引き渡すことにつながるから)という批判がある。
たしかに、高葛藤な裁判の場合、正しい証言と偽証が提出されて主張が食い違うのは、よくあることだ。どちらかまたは両者がそれぞれに片親疎外を主張することもよくある。しかし、誠実な裁判官を欺くのはそう簡単ではない。不幸にして間違えるケースがあったとしても、そう多くはないはずだ。実際、こうした間違いの例は、これまでにおそらく1件しか報告されていない。
DV的な親に騙されないための良い方法は、片親疎外の定義を皆が理解・共有することだ。すると、よく引き合いに出される「子供が面会を拒否したから、これは片親疎外だ」という(DV親からの)主張は通用しない(証拠不十分だから)。実際には、片親疎外の定義となる観察結果を偽造するのは、かなり困難である。

3 片親疎外を唱える人々の動機に関する疑惑

これが認められることで、父親の利権団体は利益を得るだろう。また、臨床心理士なども、その収入源を得ることになるだろう。その利益誘導が真実を歪曲しているという批判がある。
研究者たちが見る限り、実際にはおそらくふたつの動機がある。ひとつは、より真実に近づこう(たとえば正直さとか、科学的な価値とか)という動機。立場や意見の違いはあれ、実際に臨床や法の実務に関わっている人々のほとんどは、片親疎外が存在することを認めている。Association of Family and Conciliation Courts(家庭問題の解決を通じて、子どもと家族の生活を向上させるために働く職業人のための、非営利で国際的な協会)の会員を対象にした非公式な調査によると、回答のあった300のなかの実に98%が、「ある子どもたちは、その保護親によって、他方の親を正当な理由ななしに避けるよう操られている」ことを認めている。もうひとつの動機は、子どもたちが両親と健全な関係を築けるようにしたいということだ。これがきちんと認識されることで、子どもたちの問題発見と解決につながっていく。

4 (研究の第一人者である) リチャード・ガードナー個人への批判

査読のある学術論文として発表したのではなく、自著のなかでこの概念を明らかにした。そのため、これが証拠を欠いた妄想ではないかという批判がある。
たしかにガードナーはたくさんの本を出版しているが、彼が注意深い実務家であり、多くの臨床経験に基づいた意見であったことは明白だ。そして、片親疎外に関して、数多くの査読付き原著論文も著している。


Association of Family and Conciliation Courts大会の参加報告

大正大学の青木聡教授が、2010年の大会に出席したときの報告です(大正大学研究紀要)。DSMなどへの登録に際して、どんな話し合いがなされていたのか、その舞台裏が垣間みえます。

片親疎外を、DSM-5やICD-11*といった、国際的な診断基準として取り入れるべきかどうかの論争があった。これに否定的な人々は、定義が難しいこと、現場の混乱を招くこと、むしろ診断よりもその解決法の開発が急務だと主張した。しかし、いずれの人々も、この現象が存在することでは一致していて、いかにそれを解決すべきなのかを考えていることは共通していた。

以下の大会宣言が採択された。「『片親疎外』は、子どもに深刻な悪影響を与える問題である。離婚後も子どもは二人の親(父親と母親)を必要としている。私たちは『片親疎外』から子どもを守る」。

*いずれも国際的な、疾病の診断のための手引である。精神科は、伝統的に、医療者個人の経験に基づいて診断や治療方針の決定がなされてきた。そのため他科に比べ自然科学の発展による恩恵が得難く、患者の利益を損ねているという批判があった。そこで客観的な医療を実現するために、共通する指針を得るべく、多くの専門家が共同して、これらのマニュアルを作製・改定している。William Bernetはそうした専門医の一人である。

DSM-5:精神障害の診断と統計の手引きは精神障害に関するガイドライン。精神科医が患者の精神医学的問題を診断する際の指針を示すためにアメリカ精神医学会が定めたもので、本邦でも使用されている。片親疎外をこれに記述することで、この問題の発見と解決を早めようとして、多くの専門家がその準備作業をしている。

ICD-11 :疾病及び関連保健問題の国際統計分類は、死因や疾病の国際的な統計基準として世界保健機関 (WHO) によって公表された分類。死因や疾病の統計などに関する情報の国際的な比較や、医療機関における診療記録の管理などに活用されている。

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